棋士が選んだこの一手

山下敬吾が選んだこの一手

対局日 1933年12月6日
棋戦名 大手合選抜決勝戦 総譜はこちら
対局者
(段位は当時)
黒 関山利一四段
白 木谷實五段



  • 関山利一四段
  • VS

  • 木谷實五段


< テーマ図(白番) >
 黒1から白10まで右辺の白地にアジを付けてから黒11と左辺を囲いました。黒模様のスケールはこれ以上ないくらい大きいので、急いで消しに向かうのが常識ですが――、
  • < 1図 >
     木谷先生は、悠々と白1にツイで黒に手を渡しました。
  • < 2図 >
     普通は白1などと左下の黒模様を荒しにいく手を考えます。黒2とコウを取り返された時に右辺がどうなるかが問題ですが、これが手にならないことを読むのはプロにとって難しいことではありません。
  • < 3図 >
     例えば白1と受ければ白四子はaとbが見合いで取られません。そしてもう一方の白も黒2からシチョウで追いかけられても白の壁にぶつかります。
  • < 4図 >
     また、3図の白1では1とノビることもできます。黒2、4から白四子を取られても周囲が厚いので中手に導いてまとめて殺すことができます。
  • < 5図 >
     強いていうなら黒2、4と△を切り離しにきた時に白5から9まで最強にがんばると黒10と押されて気持ちが悪い。しかし現局面では中央よりも左下の問題のほうが大きいため、白5では手抜きでかわすことができます。
     3図から5図が手にならないことは木谷先生も百も承知。それでも木谷先生がわざわざ一手入れた理由としては、色々な手を狙われることや、黒からコウ材が限りなく多いことを嫌ったのだと思います。
  • < 6図 >
     白1以下は実戦の進行です。白1にツイでおけば黒からのコウ材はほとんどなくなるので、黒に左下を先着されても、コウ含みでどこかを手にすることができるという木谷先生の読みだったのでしょう。おそらく現代の棋士で白1のツギを選ぶ人はいないと思います。
     良い手かどうかというと疑問はありますが、すぐには手にならないところにあえて手を入れたこの白1は、木谷先生の信念のようなものを感じ非常に印象に残っています。

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