棋士が選んだこの一手

溝上知親が選んだこの一手

対局日 1995年10月25日
棋戦名 20期名人戦七番勝負第5局 総譜はこちら
対局者
(段位は当時)
黒 武宮正樹九段
白 小林光一名人


< テーマ図(黒番) >
 昭和から平成初期にかけてを代表するお二人の碁から選びました。
 第20期名人戦はお互いに持ち味の出たシリーズでしたが、本局を武宮挑戦者が制して初の名人位に就きました。
 テーマ図は135手目を迎えて黒番。左辺で大変緊迫した状況で大石同士の攻め合いとなっています。
  • < 1図 >
     黒1から3が名人位を手繰り寄せた妙着で非常に印象的でした。
  • < 2図 >
     続いて白1、3と眼を作りにいくのは黒4、6でコウに持ち込まれます。
  • < 3図 >
     コウを避けて2図の白3で1とサガるのは黒2以下「眼あり眼なし」の形で、どう詰めても白が一手負けになります。
  • < 4図 >
     1図の黒1で1と外からダメを詰めるが普通の発想ですが、これは白2とさえぎられます。眼を取るために黒3は省けませんが、白4以下今度は黒が一手負けです。
  • < 5図 >
     黒1と詰めた方が白の手数は短くなりますが、次に黒からワタる手がないので白2と手抜かれます。眼を奪うには黒3しかありませんが、白4、6と出切られて脱出されてしまいます。戻って1図の黒1、3がまさに「この一手」なのでした。
     この碁を見た時は個人的にも「何が起きたのだろう?棋譜の間違いではないのか」と思ったことを覚えています。対局者の小林名人も「何万局と棋譜は見てきたが、このような手は初めて見た」といった感想を残しています。
     この二人は棋風も対照的でまた木谷門下の同門ということもあってか、盤外でも舌戦が繰り広げられていました。私は当時10代後半の低段の頃でしたが、当時の趙治勲本因坊とともに憧れを抱いていた偉大な先輩方です。

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