棋士が選んだこの一手

羽根直樹が選んだこの一手

対局日 2000年10月11日
棋戦名 第25期名人戦七番勝負第4局 総譜はこちら
対局者
(段位は当時)
黒 趙治勲名人
白 依田紀基九段


< テーマ図(白番) >
 わずかに白優勢という局面ですが、中央には白の不安定な石があります。白1には黒2と攻めて、左上を中心とした広い空間がどうなるか、という状況です。
 ここからの依田九段の構想力が、強く印象に残っています。
  • < 1図 >
     まず最初に考える手としては、白1があります。黒2などの補強に対して白3と守れば、中央の白を生きるのは簡単ですが、黒4で左上を中心とした競り合いが始まります。
     この進行が悪いわけではありませんが、上辺や左辺がどうなるかも不透明で、判断の難しい中盤戦がまだまだ続くことになります。
  • < 2図 >
     そこで依田九段は白1とハネ出しました。決断の一手です。

  • < 3図 >
     黒2以下は実戦の進行です。依田九段は一向に中央に手を戻しません。黒14と急所に打たれると白に生きはありませんが予定の行動です。
  • < 4図 >
     続いて白15から19と手数を伸ばしてから、白21が急所です。白25まで、周囲で得をしながら攻め取りにさせるのが白の狙いでした。
     中央の白を取って手厚くなった黒に対して、左上と上辺を白地にすることでバランスがとれています。局面が簡明になり、あっという間に中盤が終わってヨセになった感じです。微細でもこれで勝ち切れるという判断力に基づいた、依田九段の捨て石の芸でした。

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