棋士が選んだこの一手

藤沢里菜が選んだこの一手

対局日 1978年3月1日
棋戦名 第2期棋聖戦第5局 総譜はこちら
対局者
(段位は当時)
黒 藤沢秀行棋聖
白 加藤釼正本因坊


< テーマ図(黒番) >
 私の祖父である藤沢秀行名誉棋聖と加藤正夫本因坊(当時)の碁です。
 白1の切りから3と押しを利かして5とツケた場面。右辺の白は一眼ですが黒にもいくつか弱点があり、取りに行くのは容易ではありません。しかし、藤沢棋聖は意表を突く一手で白のシノギ筋を封じます。
  • < 1図 >
     黒1が深い読みの入った妙手でした。そもそも△にツケられたタイミングでここに守るという発想が普通は浮かびません。
  • < 2図 >
     白2なら黒3とアテ返すのが手筋です。白4と抜かせた後に黒5とツゲば抜き跡はカケ眼になります。問題は白6のツギから8と切られた後の進行ですが――、
  • < 3図 >
     黒9と打って封鎖できるのが読み筋でした。白10で困っているように見えますが、黒11が気づきにくい好手で白12には黒13、15でワタっているのです。▲が大いに働いています。
  • < 4図 >
     2図がうまくいかないので加藤王座は白2から攻め合いを目指しましたが、これには黒3で切りを防いでから5が用意の一手でした。これでどう打っても攻め合いは黒が有利のようです。
     実戦はこの後も白が色々と手を尽くしましたが、結局右辺の白が全滅し、短手数で投了となりました。
  • < 5図 >
     1図の黒1では1のツギなどが常識的な手です。しかし白2から8が好手順。黒は眼を奪うためには9まで必然ですが白10とハネられては攻め合いは黒が勝てそうにありません。
  • < 6図 >
     5図の他にも黒1とワタる手も浮かびますが、これは加藤王座の狙い筋に入ってしまいます。白2、4には黒5、7と眼を奪うよりありませんが――、
  • < 7図 >
     続いて白8から14まできれいにワタられてしまいます。黒9、11、13はいずれも同点に打たれると白に生きられてしまいます。
     1図に戻って黒1と外して守るのが唯一のシノギ筋で、勝着となりました。
     「この一手」は碁の奥深さを感じさせる手で強く印象に残っています。

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