(挑戦者決定戦。2013年9月9日) 現在の囲碁界は「井山裕太」一色に染まっていると表現しても過言ではない。 天元位に加えて、17日に奪取した名人、棋聖、本因坊、王座、碁聖のタイトルを保持する6冠王。24歳という若さも追い風となり、その勢いは年々すごみを増している。 最大の強みは、従来の常識に縛られることなく「自分の打ちたい手を打つ」という信念を、徹底して貫き通している点であろう。 常識的な手には「最低でも90点」という安心感があるため、多くの棋士がこちらを選択しがちである。前例のないオリジナルな手には、見落としや判断ミスなどの危険が付きまとうからである。 しかし井山は、この危険性をまったく考慮に入れていないかのように、次々と独創的な構想や着手を試みる。それも挑戦手合などのひのき舞台で――。 つまりは自分の読みと判断に、揺るぎない自信を持っているのである。この「土台」がしっかりしているからこそ、どのように重要な舞台であれ、普段と同じように未知の領域に足を踏み込むことができるのだ。この圧倒的な自信に、対戦相手は身じろぎを覚えるのであろう。 その井山の天元3連覇を阻むべく、挑戦者として名乗りを上げたのが、35歳にして初の7大タイトル戦登場となる秋山次郎だ。 年齢からすると「遅咲き」の感を抱かせるが、20代はもちろん10代の棋士が次々と台頭してきている若手全盛時代において、この年齢での挑戦手合初登場は、秋山がいかにたゆまぬ努力を重ねてきたかの証しであろう。もともとプロ入り当初は、同門の山下敬吾と同等の期待を寄せられていた。その才能がついに開花の時を迎えたのである。 従って10月21日に開幕する5番勝負の見どころは、一にも二にも秋山の戦いぶりということになる。年齢では秋山がひと回り上であるが、本人に「年長だから」の意識はまったくなく、文字どおり挑戦者の立場で臨んでくるはずだ。 棋風は両者とも「力勝負もいとわない試合巧者」という似かよった一面がある。従って毎局、序盤で差し手争いが起こり、それが発端となっての激戦が繰り広げられるのではないかと予想する。 ( 敬称略、観戦記者=佐野真 )
井山裕太天元(24)=棋聖、名人、本因坊、王座、碁聖=に秋山次郎九段(35)が挑む第39期天元戦5番勝負が10月21日、滋賀県長浜市で開幕する。3連覇を目指す井山天元にとっては、王座戦防衛戦をはじめ、苛酷な対局ラッシュが続く中での戦い。挑戦者の秋山九段は7大タイトルでは新顔ながら、NEC俊英戦優勝などの実績を持つ実力者。虎視眈々と「王者」のすきを狙う。両者に5番勝負に臨む抱負を聞くとともに、第2局の立会を務める元天元の工藤紀夫九段(73)、世代的に両対局者に近い金秀俊八段(34)に、見どころを語ってもらった。 工藤 紀夫九段 × 金 秀俊八段
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