井山天元の6連覇か、一力碁聖の初天元位獲得なるか、天元戦五番勝負をリアルタイム中継

対談

 囲碁の井山裕太天元(31)=棋聖、本因坊=に一力遼碁聖(23)が挑む第46期天元戦五番勝負が10月8日に開幕する。天元5連覇を前期果たし「名誉天元」の有資格者となった井山は絶対王者の風格が漂う。対する一力は天元戦は3度目の挑戦。先に行われた碁聖戦で初の七大タイトルを獲得し、世界戦の応氏杯世界選手権ではベスト4に進むなど充実著しい。好勝負必至の五番勝負の行方は張豊猷八段(38)と鶴山淳志八段(39)に展望してもらった。

張豊猷八段 × 鶴山淳志八段
  • ―― 一力遼碁聖が挑戦者となった。8月に自身初の七大タイトルとなる碁聖を獲得して勢いがある。
  • 鶴山 もともといつ取ってもおかしくなかったが、ずっと井山さんに阻まれてきた。驚きはなく本人もほっとしたと思う。
  • ―― 一力碁聖の強さは。
  • 鶴山 読みがしっかりしているところ。
  •    最強の手でがんばるところ。いい局面でもがんばってしまいおかしくすることもあるが、強い人と打つといい方に傾く。
  • ―― 張八段の主宰する研究会には、一力碁聖が入段直後から参加している。
  •    入段のころから自信を持っている子だった。最近は自信が結果に結びつき、焦りもなくなった。棋風はそんなに変わってない。戦いの碁が好きで、シノギが特に好き。読みがどんどん洗練されている。
  • ―― 一力碁聖は井山天元に七大タイトル戦の挑戦手合いで5連敗している。一力碁聖がこの五番勝負に勝つならどのような展開。
  • 鶴山 挑戦手合いの1局目に勝ったなら、今までほど苦手意識はなく臨めるのではないか。1局目に負けて、これまでの敗戦を思い出してしまうと苦しい。
  • ―― 両者の棋風や対決の見どころは。
  • 鶴山 井山天元は発想が柔軟。一力碁聖はどちらかというと一直線。例えば、どちらもストレートが得意で力で抑える本格派のピッチャーだが、井山天元は手元で変化するツーシームやフォーシームをつかって、相手が気がつかない場面でリードを広げることがある。
  • ―― 勝敗予想を。
  •    ちょっと井山天元に乗りたい感じ。5局目まで行くんじゃないかな。僕は、若干ですが井山天元の碁の方が好きかな(笑)。オリジナリティーや柔軟さがあり、自分には浮かばない手を打つ。五番勝負でもそういう手を見てみたい。
  • 鶴山 少し前までは井山天元が勝つイメージだったが、一力碁聖は一番いい状態。1局目で一力碁聖が勝つと、そのまま勝つ気がするので、1局目が非常に重要になる。これまでの2人の戦いの中で、一番予想が難しい。いい勝負になると思う。
  • ―― ここに注目というのは。
  • 鶴山 2人は意地っ張りなので、衝突が起きて石の取り合いになるはず。激しい戦いの碁を見たい方には楽しみなカード。
  •    井山天元は日本のトップ。一力碁聖がどこまで迫れるか。この2人の対決は本当に面白い。ライバルに近い関係。井山さんも負けたくないはず。

エッセー

 今期、挑戦者決定戦のことである。上座に座って対局開始を待っていた一力遼碁聖を見て驚いた。碁聖を獲得したばかりだったにもかかわらず、日本棋院の最上の対局室である「幽玄」の間の上座に座る姿が、長くタイトルを保持していたのではないかと錯覚するほどよく似合っていたのだ。どっしりと開始時刻を待つ姿に、風格を感じた。
 一力は、入段当初から期待の逸材。一般棋戦や若手限定棋戦ではいくつものタイトルを獲得しているとはいえ、どこかに七大タイトルを取らなきゃいけないという焦りがあったようだった。
 しかし碁聖を取ったことで、ようやくプレッシャーから解放された。9月に行われた応氏杯世界選手権(非公式戦)でも一力はベスト4に進出し、まさに充実のときを迎えている。
 そんな一力にとって、どうしても突破しなければならない壁が、井山裕太天元との挑戦手合い。いままで天元戦2回を含む5回挑んで、すべてはね返されてしまっている。飛躍のためにも、ぜひ井山とのタイトル戦では結果を残したい。
 一方で、一力を迎え撃つ井山は、三冠を保持し日本碁界の第一人者として君臨。今年に入っても、棋聖戦と本因坊戦で防衛を果たし、現在は名人戦に挑戦中と好調を維持している。
 井山は、自粛期間中を振り返って「改めて自分の碁を見つめ直す時間になった」と話していた。普段であれば、どうしても目前にある対局を意識してしまう。しかし対局がなかったため、長期的な視野を持ちながら碁のことを考える時間になったとも語っていた。価値ある充電期間になっていたようで、棋士間では最近の井山は碁の内容がいいと評判だ。
 今年、井山はインターネット上で打たれた世界戦の野狐囲碁人気争覇戦で準優勝した。非公式戦とはいえ中国のトップ棋士が多数参加している中でこの結果は特筆もの。世界戦出場者を見渡すと30代の井山はベテランと言っていいが、タイムマネジメントの方法を改良するなど、意識的にテーマを持って対局に臨んでおり、さらにすごみを増している。
 本シリーズのポイントは、気負いのなくなった一力のメンタル面と見る。挑戦者決定戦の直後「(五番勝負は)一局一局、目の前の対局に集中したい」と冷静に抱負を述べていたとおり、井山という壁を意識しすぎることなく盤上に挑むことができるかが課題。それは一力自身がよくわかっているはずで、どう調整して五番勝負に臨むか楽しみだ。

(新聞三社連合・森本孝高)
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