治勲のためなら三千里【とある編集室の井戸端会議】



新人編集サイトウ
急な異動で周囲の囲碁会話が呪文に聞こえる日々を過ごす、週刊碁歴2ヵ月のアラフォー。棋力は10級。アニメとワインで現実逃避中。

先輩編集ホリー
ヒカルになるんだ!と意気込んだものの高段止まり。いつの間にか週刊碁歴10年になっていたアラサー。某ネコ型ロボットのグッズ集めが癒し。
  • サイトウ「ダイブ!!......(ちらっ)」
  • ホリー 「......」
  • サイトウ「俺の二歩は! 威力二倍だ!!......(ちらっちらっ)」
  • ホリー 「......」
  • サイトウ「こう、こう、こう、こう、こう、こうこうこうこうこうこうこうこうこうこ」
  • ホリー 「さっきから何ですか。仕事してるんですけど」
  • サイトウ「熱い決め台詞をこうも聞かされては仕事どころじゃないでしょう。何か気付きませんか?」
  • ホリー 「......ハチワンダイバー、the Killing Pawn、りゅうおうのおしごと! 全部将棋が題材の作品ですね。......で?」
  • サイトウ「将棋にね、目覚めちゃったんですよ」
  • ホリー 「......。今週は名人戦第1局の取材に行ったはずですよね? もちろん碁の」
  • サイトウ「ええ!運命の出会いが待っていました! 将棋界の魔王・渡辺明名人とのね!」
  • ホリー 「(......それでか)。観戦に訪れてくれたそうですね。日本棋院囲碁チャンネルにも出演してくださって、大盛り上がりだったとか。本当にありがたいことです」
  • サイトウ「ええ!ええ! ではでは、立会の趙治勲先生と渡辺名人が、碁と将棋の同時対局を行ったことも、当然知ってますよね?」
  • ホリー 「はい、これですね」



  • サイトウ「何を隠そう、この超ビッグイベント・影の立役者こそ、私サイトウなのです!」
  • ホリー 「ほぉ」
  • サイトウ「ことの顛末はこう。井山さんが長考してるあたりだったかなー。手順も進まないし、手持ち無沙汰になってきた治勲先生がね、唐突におっしゃたのです。『将棋指したいね』と」
  • ホリー 「ふむ」
  • サイトウ「でもね、いくら探しても将棋盤がないんですよ! 碁のタイトル戦会場ですからね、諦めムードが漂っていたりいなかったり。そこで僕は言ったのです! 『先生!諦めたらそこで試合終了ですよ』ってね!」
  • ホリー 「ははぁ」
  • サイトウ「僕は走りました! 棋院まで走って走って走って将棋盤を取ってきました! 対局場に戻るころには5キロ痩せていましたが、治勲先生の嬉しそうな顔を見たら疲れはすべて吹っ飛びましたね!」
  • ホリー 「うん」
  • サイトウ「この働きは金一封ぐらい出てもいいんじゃないかな~」
  • ホリー 「......言い忘れていましたが、このコラムはフィクションということになっています。サイトウさんの妄言は、話半分に聞いてください」
  • サイトウ「いや、本当に持ってきたんですよ?(多少盛ったけど!)」
  • ホリー 「少なくとも体重は変わってないですよ。碁の話は? 初めて七番勝負を取材したんですよね?」
  • サイトウ「はい、すごく楽しかったです。活気があって、棋士の先生も関係者の方も、皆さん優しくて。こんなのも書いてもらっちゃいました!」



  • ホリー 「朝日新聞社の『くわっち』さん作。いつも大変お世話になっています」
  • サイトウ「うまいですよね~。パイセンのけだるくてやる気なさそうな感じとか、そっくり」
  • ホリー 「......。逆にサイトウさんは、もっと脂肪に愛された体です。気を遣っていただき、すみません」
  • サイトウ「いやいや、真実の姿ですよ。言ったでしょう、5キロ痩せたって」
  • ホリー 「お肉を置いておけば激似です。皆様、町で見かけてもカロリーを与えないでください」
  • サイトウ「......」
  • ホリー 「はい、今度こそ碁の話をどうぞ」



  • サイトウ「10級なりに印象に残った場面です。僕なんかからすると、白△の石はもう取られてるように感じるんですよね」
  • ホリー 「黒に囲まれてますからね」



  • サイトウ「でも、井山さんは白1から堂々と逃げるんですよ。それどころか、あわよくば黒▲を攻めようってことらしいんです。あり得ません、どんな神経してるんですか」
  • ホリー 「厳しい発想ですよね。このあたり、白が優勢という評判だったとか」
  • サイトウ「そうそう。もうちょっと進むと、棋士の先生方が『井山さんならもう負けない』とか言うんですよ。まだ2日目のお昼ぐらいなのに」
  • ホリー 「でも紛れてきた」
  • サイトウ「らしいです。控室も急に、ざわ...ざわ...しだして。井山さんでもミスするんですね。ホリーさんが魔王魔王言うから、驚きました」
  • ホリー 「(......連呼はしてない)。でも、そこが面白いとは思いませんか?」
  • サイトウ「はい。この後も二転三転。人間だからこそミスもするし、そこにドラマも生まれるんでしょうね。棋力不足の僕には感じ取れない何かがあるんだろうな、と」
  • ホリー 「うんうん。意外とちゃんと働いてますね」
  • サイトウ「当たり前じゃないですか! 色々刺激を受けましたからね! バンバン棋力を上げていきます!」
  • ホリー 「おお!」
  • サイトウ「秘奥義、初手端歩突きでね!」
  • ホリー 「......」

  • ※ 8月31日発売の週刊碁に、名人戦第1局詳細解説とサイトウの(真面目な)コラムを掲載予定です。よろしくお願いします。