ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段)
今回は現在Eテレの人気囲碁番組『囲碁フォーカス』の講師として活躍中の鈴木伸二七段が登場しました。鈴木七段、と聞いて真っ先に思い付くのは・・・・そう、「ウニ」です。棋士仲間の中で鈴木七段を「鈴木くん」とか「伸二くん」と呼ぶ人は皆無です。同年代と上の世代からは「ウニ」、後輩からは「ウニ先生」。ほぼ100%の「ウニ」率を誇ります。
ここまで「ウニ」というあだ名が浸透したのには何か理由があるはずです。そこで今回は海の幸「ウニ」と名講師「ウニ先生」の間にある隠れた共通点を探っていきます。
ウニパスタを食すウニ先生こと鈴木伸二七段。
その1、両者とも北海道産である。
もちろん、ウニは世界中に生息していますが、日本で流通するウニの半分以上が北海道産ですので、国内においてはウニ=北海道と言ってもいいでしょう。
「囲碁フォーカス」の取材班による綿密な追跡調査によって明らかにされたところによれば、鈴木七段を最初に「ウニ」と呼び始めたのは岩田一九段門下の兄弟子、竹清勇五段だそうです。竹清五段は「ウニ」と名付けた理由について、「出身地を聞いたら北海道だったから」と番組内で証言されています。
その2、目印は「黒」。
さばかれて食卓にのぼる前のウニは黒いです。もし、海でウニを探したかったらまずは尖った「黒」を探す必要があります。
一方の鈴木七段のトレードマークは「黒ぶちメガネ」。ご本人も「眼鏡はもはや体の一部」とおっしゃっています。日本棋院内で鈴木七段を探したい場合はまず、「黒ぶちメガネ」をかけている方を探すといいかもしれません。
その3、生命力。
ウニは驚異的な生命力を持っているそうです。とても長生きで、種類や環境によっては200年生きることもあるとか。底知れないパワーを感じます。
一方、鈴木七段の棋風について、つる&りんは「ひょうひょうとしていて、どんな碁でも打てるし、一局を通じて大きく崩れることがない。しぶとい」と証言しています。どんな荒波も受け流して最後までサバイブする生命力は両者の共通点と言えるでしょう。
その4、天才的な発想。
鈴木七段の碁の特徴として、つる&りんがあげたもう一つの特徴は「独自のスタイルを持っている。天才的な発想をする」です。AI研究が進み、似た打ち方が増えていく中でも、鈴木七段は自分の考えを貫いているのだとか。その天才的な発想で、井山裕太名人や一力遼棋聖を相手に勝つことも。
さて、あの特徴的なフォルムから一目瞭然ですが、海の幸「ウニ」も、他のどんな生物にもマネできない非常に変わった発想で生きています。トゲトゲを足のように動かして移動したり、岩に張り付いたりし、トゲが少なくなっている部分にある「アリストテレスの提灯」と呼ばれる口から昆布などを食べたりします。・・・天才としかいいようがありません。
こうして改めて考察してみると、鈴木七段のあだ名「ウニ」がここまで広く浸透するのも納得です。北海道にはたくさんの名産物がありますが、竹清五段がウニ以外の、例えば「メロン」あるいは「カニ」と名付けていたら、あっという間に廃れていたように思います。
テレビの講師として忙しい日々を送る鈴木七段は、棋戦の方も絶好調。棋聖戦のBリーグ2組で6月20日、伊田篤史八段に勝って優勝を決めました。Bリーグ1組の優勝者、富士田明彦七段と最終決戦を行って、勝てば挑戦者決定トーナメントに進みます。独自のスタイルを貫くウニ先生こと鈴木七段の活躍から目が離せません!!