ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段)
読者の方からのリクエストスペシャル第4回は「熟慮断行」。有名な長考派で盤上でもプライベートでも決断力が光る星合志保三段が選ばれました。
紙面では星合三段の決断力の良さ、主に「熟慮断行」の「断行」に焦点を当てたので、本コラムでは「熟慮断行」の「熟慮」について考察したいと思います。方法は3人の長考派棋士へのアンケート調査です。「我考えるゆえに我なり」。長考派の頭の中がどうなっているのか、早速ご紹介していきましょう!
考える人(星合志保三段)
【星合志保三段】
- Q. なぜ長考をするのですか?
- A. 納得してから打ちたいのと、いろんな手を考えるのが楽しいからです。
- Q. 長考をやめようと思ったことはありますか?
- A. 最近は以前よりも割り切って早く打つようになってきました!
- Q. 今まででした一番の長考は何分くらいですか?
- A. 正確にはわかりませんが、3時間の碁で1時間考えたことはあると思います。
- Q. 自分よりも長考だと思う人を教えてください。
- A. 張豊猷八段です。
【首藤瞬八段】
- Q. なぜ長考をするのですか?
- A. 妥協できないし、妥協したくない気持ちが強いからです。この局面の最善を考えたいとつい思ってしまいます。
- Q. 長考をやめようと思ったことはありますか?
- A. いい質問ですね。試したことはありますが、結局長考しています。納得していないうちに打ってしまって後で後悔するのが嫌なんです。
- Q. 今まででした一番の長考は何分くらいですか?
- A. 5時間の碁で1手に2時間考えたことがあります。
- Q. 自分よりも長考だと思う人を教えてください。
- A. 張豊猷八段ですね。
【柳時熏九段】
- Q. なぜ長考をするのですか?
- A. 昔は持ち時間が5時間以上の碁がほとんどで、長考は珍しくなかったんです。そのクセが抜けないのだと思います。皆さん、3時間の碁に適応してある程度まで考えたら割り切っているのだと思うのですが、私は他の方より「ある程度」が先にあるのか、納得するまで読むといつの間にか時間が経っています。
- Q. 長考をやめようと思ったことはありますか?
- A. 何度もあります。今の時代に長考は短所なので、早く打とうとは思うんです。ただ、自分の中の結論が出ないうちに石を持てなくて結局長考してしまいます。
- Q. 今まででした一番の長考は何分くらいですか?
- A. はっきりしませんが、2時間くらいでしょうか。
- Q. 自分よりも長考だと思う人を教えてください。
- A. 先ほども言いましたが昔は長考は珍しくありませんでした。趙治勲名誉名人は7時間の碁で、50手そこそこで秒読みなんてこともありましたし、林海峯名誉天元とタイトル戦(第20期天元戦挑戦手合)で対局した時は、私も相当長考の自負があったのに全局で林先生が先に秒読みに入られて驚いたのを覚えています。ただ、昔の先生方も今は3時間の碁に対応して昔のようには長考しなくなりました。まあ、今現在自分を上回る長考派というと・・・張豊猷八段ですね。
今の時代、後半に時間を残しておいた方がいいに決まっている。それでも納得するまで考えたいし、考えてしまう。個人的には効率に関係なく深く盤に没頭する長考派の皆様の姿は碁の奥深さを端的に表しているようでとても魅力的だなと思いますが、「勝負」を考えると不利に働くことが多いのでご本人の中では葛藤があるようです。それにしても張豊猷八段・・・。ここまであまねく認められた長考派だったとは存じ上げませんでした。今後はキングオブロングソート(King of Long Thought)と呼ばせてください。
張豊猷八段?いいえ、上野の考える人です。
記・編集K