ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段)
今回は阿含・桐山杯で見事初優勝を果たした平田智也七段が登場しました。つる&りんは言います「棋士にとって『優勝』は言葉で言い表せないくらいに大きい」。伝統ある全棋士参加棋戦、阿含・桐山杯で一力遼棋聖、本因坊文裕を破って勝ち取った優勝は平田七段にとって非常に価値あるものだったに違いありません。
さて、そんな平田七段にはとある野望があるそうです。本コラムではそれをご紹介しましょう。
つる&りんも言っていましたが棋士の世界は究極的には「一番」と「それ以外」で分けられてしまう非常に厳しい実力社会です。誰もがタイトルホルダーになれるわけではないけれど、全員そこを目指して闘う。平田七段は実力者ですが、本当のトップ棋士との埋められない差を感じてきたし、今も感じるそうです。平田七段は言います。「今回は運良く優勝できましたが、僕は一力さんや井山さんにはなかなか勝てない。タイトルをどんどん取るというのも現実的じゃありません」。
目指してきた「トップに立つ」という夢を自分には叶えられないと思った時、平田七段が新たに抱いた野望があります。それが世代一強いおじさんになることでした。「僕は毎年勝率7割を目標にしています。勝率7割はどの棋戦でもしっかり勝たないと達成できないですし、逆にいえば勝率7割ならば一線で戦えている証です。もしこの勝率7割を20年、30年とキープできたら、それはすごい強いおじさんになると思いませんか?」
平田七段は、昨年は勝率7割に届かなかったものの、一昨年と今年は勝率7割を達成しています。「今の時代だからこそ、長く活躍するという目標は挑戦しがいがあります。今勝てない相手でも20年後、30年後にはわからない。ずっと勝率7割をキープできていれば、そのうち僕が同年代の中で一番強いおじさんになっているかもしれません」。
平田七段は28歳。私、編集Kは自分よりも若い平田七段の夢が「強いおじさん」ということに少し衝撃を受けましたが、考えてみれば考えてみるほどしみじみと素敵な夢のように思えてきました。世代一の強いおじさんに俺はなる!「一番」と「それ以外」の厳しい社会ですが、「一番」の取り方は一通りではないのかもしれません。