ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段)
今回は柔でよく剛を制している漢、横塚力七段をご紹介しました。つるりんいわく、いつも柔らかい雰囲気の横塚七段は力を逃がす名人なんだとか。隠し持ったインテリジェンスで猛者たちを上手にかわしているようです。
さて、そんな横塚七段、実は東京理科大学の建築学科を卒業されているのですが、皆さんご存じだったでしょうか?能ある鷹は爪を隠すので、ひょっとしたらご存じない方が多いかもしれません。
そこで、本コラムでは隠された横塚七段のインテリジェンスを、とりわけ建築に対する造詣の深さを暴く企画を用意しました。題して「東京理科大建築学科卒、横塚力七段の推し建築5選!」名門大学の建築学科を卒業した知識とセンスを存分に披露していただきましょう!!
(以下、横=横塚力七段、K=編集K)
- 横) ちょっと大げさじゃないですか?インテリジェンスとか、僕ないですよ?それに建築もそれほど詳しいわけでは・・・。
- K ) またまた~。東京理科大の建築学科ですよ!大学では家の設計をしたり、模型を作ったり、されていたんですよね?
- 横) まあ、そうですけど・・・そうですよね。
- K ) そうです!詳しくないわけがないです。横塚七段の推し建築を教えてください!
- 横) 推し建築ですか。そうですね、いくつくらい挙げる感じですか?
- K ) 碁にかけて、5つでお願いします。
- 横) なるほど(笑)。どれが一番とかではないんですけど・・・、まずは伏見稲荷大社でお願いします。
- K ) 京都の千本鳥居が有名な神社ですよね。
- 横) はい。僕はあの千本鳥居がめちゃくちゃ好きなんです。中学の修学旅行で行った時、友達と本当に千本鳥居が千本あるのか数えたんですよ。
- K ) それはすごいですね。
- 横) あんまり本当に数える人はいないと思うので、ちょっと自慢なんです(笑)。そしたら、本当に千本以上あったんですね。それでますます好きになりました。それに、そもそも僕は同じ形状の物が等間隔にあるのが大好きなんです。
- K ) はあ。
- 横) デジタル上の設計で等間隔を引くのはすごく簡単で一瞬なんですけど、いざ模型で同じことをしようとするとめちゃくちゃ難しいんです。どんなに定規で測っても少しズレる。だから、実際に等間隔で並んでいるものを見ると「すごい!」って思うんですよね。
- K ) 建築学科生ならではの視点ですね。
- 横) 同じ理由で三十三間堂も大好きです。柱間が33あるから三十三間堂というのですが、建物の構造も等間隔になっていて、仏像も等間隔で並んでいる。等間隔は少しでもズレると絶対に違和感を与えるものなので、あの技術には感動します。
- K ) 他にはいかがでしょう。
- 横) 等間隔の他にもう一つ僕が好きなのが螺旋です。なので、会津若松の会津さざえ堂(円通三匝堂)にはとても惹かれます。
- K ) 会津若松といえば女流立葵杯の舞台ですね!
- 横) そうなんです。立葵杯が行われる東山温泉の「今昔亭」からタクシーだと10分弱で行けるらしいです。
- K ) 立葵杯は例年6月に挑戦手合がありますよね。
- 横) いや、もう。ぜひ行きたいです。
- K ) 叶うといいですね(笑)。では、それはいったん横に置いて、どこに惹かれるのかを教えてください。
- 横) そうですね。会津さざえ堂は二重螺旋構造という世界的に珍しい構造なんです。僕は螺旋階段のある家に住むのが夢なくらい螺旋が好きなのですが、この会津さざえ堂の螺旋階段はさらにすごい。
- K ) どうすごいんでしょうか。
- 横) 一方通行なんです。
- K ) 一方通行がすごいんですか?
- 横) そうです。二重螺旋だから上がる人と下る人が交わらない。この動線が決まっているところがたまらないんです。
- K ) なるほど~。次はどこでしょうか。
- 横) 姫路城です。好きな理由は会津さざえ堂と少し似ているかもしれません。スーパーとかでよくある階段は上りと下りが隣接してますよね。でも、姫路城は階段同士が離れていて、ぐるっと建物を一周しないと上がれない。その「ぐるっと一周しないと上がれない動線」というのが好きなポイントです。しかも、姫路城は真っ白な白漆喰の外装が有名ですが、内装もすごくカッコいいんです。動線に沿って素晴らしい内装を堪能できるところがよくできているなと思いますね。
- K ) 建築学科らしい着眼点ですね。では最後に取り上げるのはどこでしょうか。
- 横) 能代市の旧料亭金勇です。
- K ) おお!本因坊戦第2局が行われる場所ですね!
- 横) そうです。しかも、僕は新聞解説で現地に行けるんです!!楽しみでしかたないです。
- K ) いいですね!私も一度同行させていただいたことがあります。すごく大きなお座敷が壮観でした。
- 横) あのお座敷は110畳。110畳の畳というのがまずすごい。そして、何よりも天井が素晴らしい。
- K ) 天井ですか。
- 横) 四畳半の畳の敷き方ってわかりますか?長方形4つを合わせて正方形を作るあれです。僕は四畳半の畳が好きなんですけど、金勇の天井はその形になっているんですよ。
- K ) そうなんですか!
- 横) はい。四畳半がたくさん連なる構造になっているんです。等間隔好き、四畳半好きとしてはたまりません。
- K ) お話を聞いていたらまた金勇に行きたくなってきました。
- 横) あ、僕、何度か行かせていただいているので、写真ありますよ。見ますか?
- K ) うらやましいです・・・。あとで見せてください。本日はありがとうございました。
記・編集K
2018年の本因坊戦に横塚七段が同行した時に撮った写真。110畳のお座敷で打ち上げをしているところ。横塚七段「またあの天井が見れるのが嬉しい」。
記・編集K