ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段)
今回の四字熟語は激しく戦う様を表した「丁々発止」。今まさに頂点を激しく争っている井山裕太王座と一力遼棋聖の番勝負そのものです。つい先月まで行われていた第78期本因坊戦ではフルセットまでもつれ込む大熱戦を一力が制し、新本因坊となりました。そして碁聖戦では井山碁聖が3連勝で防衛。まさに一進一退の攻防で毎局ドキドキさせられます。
第78期本因坊戦第7局終局時の様子
さて、そんな井山王座と一力棋聖の番勝負の始まりは2016年の天元戦にまで遡ります。当時の井山王座はまさに1強状態。ほとんどのタイトルを独占しているだけではなく、一手一手が重厚かつ華麗。その強さはもはや勝負の域を超えて芸術的で、誰がこの人に勝てるのだろうか、と思ったものです。その井山王座に一力棋聖は果敢に挑戦し、何度も敗れながら力を付け、ついに2020年の天元戦で雪辱を果たします。そして現在、2人の戦いは激しさを増しながら続いているのです。ということで、本コラムではそんな2人の番勝負から、つる&りんが感動した一手をご紹介していきましょう。
つるが感動した一手(1)
今期本因坊戦で僕が特に感動したのは第2局です。中盤、中央で激しい戦いが発生し、超難解なせめぎ合いの末、大石同士の攻め合いになりました。
当然「この攻め合いを制した方の勝利」と僕は思いました。しかし一力さんは局面図黒1と大石を捨てる手を選択。地合勝負に持ち込んで見事に勝ちを引き寄せました。この局面、おそらくこれで黒の勝ちと正確に判断できていたのは一力さんだけだったのではないかと思います。本当に正確で見事な判断でした。
つるが感動した一手(2)
今期本因坊戦以外では昨年1月に行われた第46期棋聖戦第1局が印象に残っています。
細かいながら井山棋聖のリードで迎えた終盤、井山さんが決め手となるヨセを放ちました。緩んでは負けなので一力さんも最強で応じるしかない。しかしどう見ても手になっている・・・。しかし、一力さんだけには妙手が見えていました。それが局面図白1のブツカリです。これで無条件黒死。見事に勝利をものにしました。
この棋聖戦は井山さんに押されていた一力さんが反転攻勢に出たシリーズ。中でもこの第1局を制したことが一力さんの躍進につながっていると思います。
りんが感動した一手(1)
私が今期本因坊戦で感動したのは第3局です。ここまで一力さんが手がつけられない強さで他棋戦も含めて負けなし状態だったところを井山さんがガツンと食い止めました。
封じ手で黒1と打った手は様子見かと思いきや黒Aのノゾキからの切断を狙った強手。ここを切って戦おうというのはいかにも井山さんらしい最強の発想です。実際、1日目の時点ではやや白有望かと思われた形勢がこの一手を境に一気に難しくなり、最後は井山さんのヨミと判断が一力さんを上回り勝利。絶好調の一力さんを止めたのはさすがとしか言いようがありません。
りんが感動した一手(2)
さすが井山さんといえば昨年の第77期本因坊戦第1局です。この碁は本因坊戦史上最長手数の357手で、内容も両者の力が拮抗し、最終盤までどちらに転ぶか分からない半目勝負と歴史に残る名局でした。
どちらに転ぶか分からない、しかし本当に僅かな差だけれど白に半目残りそうな予感がするという場面。局面図黒1のコスミが素晴らしい手筋でした。これによって上辺がコウになり、他の場所のコウも絡み合いながら複雑なヨセ勝負が繰り広げられるのですが、落ち着いた局面で数えてみるとなんと今度は黒の半目勝ちになっていたのです!1目を争う究極のヨセ勝負で震えるほど感動しましたし、この勝負を制した井山さんは本当に素晴らしかったです。