Re☆start~星合志保三段が最強の親友と戦って得たもの【コラム:品田渓】


 「シリーズを振り返っていかがでしょうか」。藤沢里菜女流本因坊星合志保三段が挑戦した第40期女流本因坊戦五番勝負。第3局の終局後、記者から問われた星合三段は「そうですね。やっぱり五番勝負で、最後まで打ちたかったんですけど」そう言って沈黙した。10秒、20秒...。「すみません...そうですね...」小さな声で謝るとまた沈黙。最後は「そうですね、藤沢さんと盤を挟めてすごい勉強になりました。実力はもちろんのこと、時間の使い方とか冷静さとかすごいなあというのを改めて感じたので、いろいろ学ぶことが多くて、今後につなげられたらいいなと思います」と振り絞るように決意を語った。
 本シリーズは藤沢女流本因坊と星合三段のプライベートでの仲の良さから「親友対決」とも称された。しかし一方で、藤沢女流本因坊は押しも押されもせぬ第一人者。星合三段が圧倒的な強者に挑む、挑戦の物語でもあった。
 あの挑戦からしばらくたち、星合三段は今何を思うのか、シリーズを振り返って考えたこと、感じたことを聞いた。


  • ― インタビューでの沈黙はとても印象に残りました。あの時はどんな心境だったのでしょうか。
  •   あれは単純に泣きそうだったんです(笑)。自分の気持ちを言うと感情があふれちゃいそうで。五番勝負なのに3局で終わってしまって、本当は最大あと2局あった。もっとお見せできたんじゃないか。ファンの方に申し訳ない。悔しい。不甲斐ない。いろいろいっぱいになって、話せなくなってしまいました。
  • ― この五番勝負は初挑戦で思い入れも強かったと思います。どんな気持ちで挑まれたのですか。
  •   里菜ちゃんは本当に強い。そのすごさを知っているので、楽しみでもあったけれど、怖くもありました。ちゃんと里菜ちゃんと戦えるのかって。実際、ファンの方も「ほっしー大丈夫かな」と思っていた方が多いと思うんです。客観的に見て実力差は明らかなので。でも、つまらないタイトル戦にしちゃいけないと思って、そこはずっと不安でした。
  • ― 実際に戦ってみていかがでしたか。
  •   第1局は特に自分が打ちたいように打てて、手ごたえを感じました。逆転負けは悔しかったのですが、それ以上に、私は里菜ちゃん相手にここまで戦えたんだ、という気持ちの方が大きくて。第3局もチャンスはあったと思います。自分なりにはいい内容で打てたと思います。でも結果に結びつかなかった。自分に足りないものをすごく感じました。
  • ― 足りないものとはどんなものですか。
  •   今まで私は対局の時、自分が納得できる手を打つことしか考えていませんでした。でも今回、里菜ちゃんから勝負の厳しさというのをすごく感じて、それだけじゃいけないんだと思いました。
  • ― 勝負の厳しさとは、具体的にはどんなものでしょう。
  •   まず盤を挟んで感じる対局中の雰囲気が厳しいです。あと、冷静さや忍耐力。普通ならあきらめてしまいそうなところを手繰り寄せていく勝負強さがすごいなと。棋譜に表れる着手以外の強さというのをすごく感じました。時間の使い方も、里菜ちゃんは大事なところでちゃんと使っている。決断力が違うと思います。私は自分が納得できるかに集中してしまって、AとBどちらを選んでもそれほど形勢に影響しない、というような場面でも考え込んでしまうところがあるので。そういうどっちを選んでも一局、という場面では早めに決断して、後半の勝負所に時間を残しておくのがとても大事なんだと思いました。
  • ― この経験を経て、今後の抱負を教えてください。
  •   今回の五番勝負は、今の自分が全部出たと思います。いいところも悪いところも含めて。正直、もっとボコボコになるかと思っていたので、内容的に手ごたえを感じた部分はありました。でも、結果は3連敗。ここから上にいくためには、自分が納得できる手、いい手を打つだけじゃいけなくて、もっと勝負的なところを意識しないといけないと感じました。 里菜ちゃんもあそこまでいくには何度も何度もギリギリの勝負をして自分を磨いていったんだと思います。なので、私もいい手を打つだけじゃなくてもっと勝負に勝つことを意識しながら、一局一局を大切に打っていこうと思います。その先に自分の課題を克服できる、そう信じています。
(インタビュアー・品田渓)


経験を糧に成長を期す


五番勝負第1局に臨む星合三段


藤沢里菜女流本因坊と新花巻駅にて


第3局の後、インタビューに応える