「課題は詰碁」藤沢里菜女流本因坊、上半期を振り返る【コラム:品田渓】


 女流名人戦仲邑菫二段の挑戦を受け、天元戦本戦ではベスト4をかけて大竹優六段と戦い、6連覇がかかる女流立葵杯で最強の敵、上野愛咲美女流棋聖と死闘を繰り広げた(1勝2敗で失冠)。
 藤沢里菜女流本因坊にとって2022年の上半期はどんな半年間だったのか。手応えと課題、下半期に向けた抱負などを聞いた。
(インタビュアー=品田)


  • ―― 早くも一年の半分が過ぎました。上半期の出来事で印象的だったこととして、特に女流名人戦があげられるかと思います。仲邑菫二段(13歳)の挑戦を受けていかがだったでしょうか。
  • 藤沢)10歳年下の相手と挑戦手合を戦うのは初めてで、注目度も高かったので、シリーズが始まる前は少し戸惑いもありました。でも、いざ盤の前に座ってしまえば、そういうことは関係なく集中できたと思います。
  • ―― 結果は2連勝で防衛となりました。戦ってみて、仲邑二段はどんな相手でしたか。
  • 藤沢)菫さんとは普段から同じ研究会(いち研)でよく打っているので、その強さはよく分かっていました。ストイックで勉強量がすごいのでいい刺激になっています。女流名人戦で驚いたことはその切り替えの早さですね。対局に負けた直後でも普段と変わらず私の控室に遊びに来てくれて、「名探偵コナン」の話をしていました。切り替えの早さは勝負の上でとても大事なことなので、すごいなと思います。
  • ―― 女流棋戦でいうと次は女流立葵杯がありました。上野愛咲美女流棋聖との挑戦手合三番勝負はいかがでしたか。
  • 藤沢)第3局の内容があまりよくなくて、あっさり折れてしまった感じだったので、そこは少し悔いが残ります。実力不足を実感したので、これから頑張ろうと思いました。
  • ―― 上野女流棋聖とは何度もタイトルを争っています。
  • 藤沢)今回は改めて愛咲美さんの強さを実感しました。読みの早さ、力の強さが抜きん出ています。私も戦いは嫌いじゃなくて、練習碁などでは特に戦いの碁をよく打つのですが、実際には戦いで形勢を損ねることも多い。そこをどこまで伸ばしていけるかが課題だと思いました。最近は昔ほど詰碁に力を入れていなかったので、これからは詰碁に重点を置いてみようと思います。
  • ―― ところで、上野女流棋聖といえば、「縄跳び」や「バナナ」など、ルーティンやゲン担ぎが有名ですが、藤沢女流本因坊も何かそういう決め事のようなものは持ってらっしゃるのでしょうか。
  • 藤沢)愛咲美さんほどではないですけど、ありますよ(笑)。洋服や昼食に食べる物はちょっと気にしています。この服の時は勝ったとか、この昼食を食べると勝率がいいとかは覚えていて、なるべく勝っている服、勝っている食べ物を心がけています。
  • ―― ということは、気に入っていた服でも負けると格下げになったり、好きな食べ物でも負けると食べないようにしたりするのでしょうか。
  • 藤沢)そうです(笑)。普段のお昼は親子丼を食べることが多いのですが、今回の立葵杯第3局ではお昼ご飯に「色彩弁当」という初めてのお弁当を注文してみたんです。すごく美味しかったですけど、もう注文しないですね(笑)。あと服も、負けた服は勝負服から普段使いの服に格下げしています。
  • ―― けっこうこだわってらっしゃるんですね!
  • 藤沢)そうですね。でも、服や食事はわりとよく聞きます。棋士あるあるかもしれないです。
  • ―― 藤沢女流本因坊はここ数年、毎年一般棋戦で本戦入りをされています。今年は特に天元戦本戦でベスト8まで勝ち進みました。
  • 藤沢)ベスト4に進めなかったのは残念でした。準々決勝の大竹さんとの碁でも読みの部分でスコッと抜けているところがあって負けてしまったので、やはり課題は詰碁ですね。ベスト8とベスト4の間に一つ大きな壁があるように感じるので、この壁を越えられるように頑張りたいと思います。
  • ―― 7月になり、今年も後半戦に入りました。下半期に向けて楽しみにしている対局、抱負などを教えてください。
  • 藤沢)女流棋戦では扇興杯の準決勝がもうすぐあって、菫さんと対戦します。最初のうちは菫さんと打つのにプレッシャーを感じる部分もあったのですが、今はもう実力も実績もある普通の強豪という感じで、あまり意識しないで打てそうです。一般棋戦では棋聖Cリーグと本因坊戦最終予選で頑張りたいですね。Cリーグは前回残留だったので、今回はその上の昇格を目指したいです。本因坊戦最終予選は5時間と時間が長いので、まずはアクティブに体を動かして体力作りを頑張ります。あと、国際戦では湖盤杯(湖盤杯ソウル新聞世界女子囲碁覇王戦。5人1チームの勝ち抜き団体戦)の第2ラウンドが始まります。コンディションをととのえてチームに貢献したいです。
  • ―― ありがとうございました。
記・品田渓