人生に寄り添う囲碁―レポート「誰でも囲碁大会」【コラム:品田渓】


 囲碁を打ちたい人ならば誰でも、年齢性別関係なく障害があってもなくても、文字どおりだれでも参加できる「誰でも囲碁大会」が8月28日(日)日本棋院で開催された。
 旗振り役となったのは盲目者用の碁盤「アイゴ」の普及を行っている柿島光晴さんだ。長年の普及活動を通して知り合った人たちに声を掛け、ネット上でも広く参加者を募ったところ、すぐに定員いっぱいになった。参加者80人のうち20人が障害を抱えており、その障害は視覚障害、聴覚障害、高次機能障害、発達障害、脳性麻痺とさまざま。障害の種類によって必要なサポートはあるものの、盤上では誰もが対等に勝負をし、コミュニケーションを楽しんだ。
 「社会には障害がある人もない人も同じように暮らしている。だから、社会がそうであるように、障害者も健常者も一緒に囲碁を楽しみたいし、そうあるべきではないかと思いました」と柿島さん。柿島さん自身はこれまで数多くの囲碁大会に参加してきたが、やはり障害を持つ人にとって、一般の大会に一人で参加するのはハードルが高い。そこで今回は「誰でも」と銘打つことで障害があっても参加できることを強調した。柿島さんは「いずれはすべての大会で誰でも気軽に参加できるようになれば」と語る。

 誰でも囲碁大会では他の大会では見たことがないような光景がたくさんあった。例えば、視覚障害を持つ人が対局する場合はアイゴを用い、対局者は盤を触って石の位置を確かめる。脳性麻痺の人が対局する場合は手が震えてしまうため、誰かが石の位置を直すサポートをしたり、「4の十六」のように番号で着手を伝えたりする。しかしひとたび盤上に目を移すとそこには見慣れた光景が広がっていた。
 40年ぶりに碁石を握ったという脳性麻痺を持つ古本聡さんは「ずいぶん久しぶりだったけど、意外に覚えているものですね」と話し、「私は番号で着手を伝えてもいいし、(視覚障害を持つ方との対局では)相手の手を取って着手を教えてもいい。それぞれ違うやり方だけれど同じ碁を打つというのは、異種格闘技のよう。今、盛んにインクルーシブとかダイバーシティといったことが叫ばれていますが、その本当の意味を知っている人が何人いるでしょう」と投げかけた。
 参加者80人のうち、60人は健常者だ。親子で参加していた小学2年生の林蔵之道くんは「二段で出て全敗してしまったけど、いろいろな人と打てて嬉しかった。アイゴもできて楽しかった」と話した。対局するうちに次第に外形的なことは気にならなくなり、人と人とのコミュニケーションだけが残る。できること、できないこと、囲碁歴、きっかけ、動機、それぞれの人が持つバックボーンは違うけれど、「碁を楽しみたい」という核があると違いを超えて心を通わせられる。
 柿島さんは失明後、囲碁以外のゲームもいろいろ試したという。その中で「一番心がつながり合う感じがしたのが囲碁だった」と話す。他にも「囲碁は特別な趣味」という声は多く聞かれた。楽しみとなり、人とのつながりを助け、世界を広げ、癒してくれる。愛好家にとって囲碁は人生にそっと寄り添ってくれる友達のような存在なのだと取材を通じて思った。

記・品田渓


誰でも囲碁大会の模様。「いつかは『誰でも国際囲碁大会』を開きたい」と柿島さん。

大会では水間俊文八段による入門講座、岡田結美子六段によるランクアップ講座も行われた。

柿島さんによる視覚障害者向け囲碁入門講座。盤にはめ込んだ石を触ることで局面を把握できる。

  • * 柿島光晴さんの活動についてもっと知りたい方、活動を支援したい方は日本視覚障害者囲碁協会 公式ウェブサイト(aigo.tokyo)をご覧ください。