つるりん杯・団体戦―「打つ碁」委員会実行委員、鶴山淳志八段の奮闘【コラム:品田渓】


 去る9月10日の9時30分、日本棋院1階は満員電車並に混雑していた。原因は鶴山淳志八段林漢傑八段による「つるりん」コンビが仕掛けた「つるりん杯・団体戦」。参加人数は約300人。1階と2階が大会を楽しむ人々で埋め尽くされ、そこかしこで笑い声と歓声が聞こえた。主催者発表によれば「控えめに言って大成功だった」というのだ。



 週刊碁「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」でチームつるりんに入っていた私、編集K、改め品田渓はこの一報を聞いてすぐさま鶴山八段にインタビューを行った。プロとアマが合作した「つるりん杯・団体戦」大成功の舞台裏とは。「観る碁」委員会委員から「打つ碁」委員会実行委員に華麗なる転身を果たした鶴山八段の奮闘を聞いた。

  • ― お久しぶりです、つる先生。
  • ○ お久しぶりです、って、全然久しぶりじゃないですよね(笑)?
  • ― つるりん杯、とても評判良かったですね。X(旧ツイッター)からも大会の熱気が伝わってきました。
  • ○ そうなんです。おかげさまで、控えめに言って大成功でした!
  • ― 今回は「大成功の舞台裏」ということで、つる先生が大会に向けてどんなことをしてきたのかを伺えればと思います。まず、大会を主催しようと思われたきっかけを教えてください。
  • ○ ある方から「アマ大会が少なくなっている」と聞いたことです。コロナ禍で減ってしまった大会が、復活せずにそのまま無くなってしまうこともあり、もっと打ちたいという声があると知りました。幸い棋士の立場は皆さまにご協力いただきやすいので、そういう声があるなら自分たちで作ってみようかなと思ったんです。
  • ― すごいバイタリティですね!実際に大会を主催するにあたっては、どこから始められたんですか?
  • ○ 品田さん、「つるりん」の座右の銘は覚えていますか?
  • ― はい。「他力本願」ですよね?
  • ○ その通り!ですから、いろいろな方にご協力をお願いしました。まず、どんな大会にするかはアマ大会の運営をよく知る方に相談して、1回目は団体戦がいいんじゃないかとアドバイスをいただきます。その方が言うには、各所に名幹事さんたちがいるそうなんです。その名幹事さんたちに事前にご協力をお願いすれば、たくさんチームを出していただけますよ、と。実際、本当にその通りで、今回の大会運営でどれほど幹事さんたちに助けていただいたか分かりません。
  • ― なるほど、つるりん杯が団体戦としてスタートしたのにはそんな背景があったんですね。
  • ○ さらに、その方から当日の大会運営をするスタッフの方たちをご紹介いただきました。やってみて分かりましたが、当日の大会運営はものすごく手際が求められるんです。受付のスムーズさ、会場アナウンスの的確さ、撤収の早さ。もしプロフェッショナル集団でなければ大会がグダグダになってしまっていたと思います。
  • ― 人材を集めたんですね。
  • ○ あと、審判長を安田明夏初段にお願いしました。これは僕のこだわりです。そして、大正解だったと思います。人気はもちろんのこと、気さくで、本来は審判長として当日いてくれるだけで良かったんですけど、大会準備も快く手伝ってくれました。一緒に作り上げている感覚があって、それが大会の一体感につながったと思います。それから大会の賞品、これは他力本願の極みです。いろいろな方にご助力いただいて、とても充実した内容になったと思っています。
  • ― 大会のチラシ作りや参加者募集、クラス分け、対戦表&対戦カード作り、といった事務作業はどなたがされたんですか?
  • ○ よくぞ聞いてくれました。僕です。
  • ― どこぞのプロフェッショナルがチームに入ったりは・・・
  • ○ これだけはないです。僕1人です。
  • ― えっと、りん先生は・・・
  • ○ 彼は優秀な棋戦アナリストかもしれませんが、事務に関してはポンコツです。安田審判長の方が余程働いてくれました(笑)。とはいえ、彼にも大事な大事なムードメーカーという役割があります。大会のチラシ配りで碁会所巡りをさせていただいたのですが、それに同行したことと、当日の笑顔、そこだけは褒めてあげましょう(笑)。
  • ― りん先生・・・、そうだったんですね(笑)。事務作業で一番大変だったことはなんですか?
  • ○ 大会申し込みをすると自動で受付完了メールを返送するシステムを自分でプログラミングしたんですけど、それが一番大変でした。これは一箇所書き間違えをしたためになかなかうまくいかなくて、何時間もかかったので、やっとできた時の嬉しさはものすごかったですね。
  • ― メールのシステムをプログラミング!?・・・自分がそういうのに疎いので、そんなことができるつる先生が神に見えます・・・。
  • ○ いやー、あれは我ながらよく頑張りました(笑)。あと、クラス分けの作業ですね。これも楽しいけど大変でした。でも、幸い僕にはほとんどのアマプレーヤーの棋力を把握している優秀なアドバイザーさんたちがいたので、なかなか的確なクラス分けができたのではないかと自負しています。ただ、各クラスを偶数で分けるようにしていたのですが、前日にキャンセルがあって2クラス奇数になってしまったんですね。手空きができちゃうなんてもったいない!と思って、でき上がっていた表を作り直したんです。それは大変でした。
  • ― す、すごい。そのように手作りした大会が成功したら、感慨もひとしおでしょうね。
  • ○ いや~、嬉しかったですね。でも、やってみて分かったんですけど、僕はこういう裏方作業が好きみたいです。各チームの幹事さんにアンケートのご協力をお願いしていて、改善点なども見えてきたので、またやりたいですね。
  • ― なんだかつる先生がプロフェッショナルですね。今まで週刊碁やつるりんチャンネルなどで「観る碁」を推奨されてきたわけですが、今回は大会運営という、言わば「打つ碁」の旗振り役を務められました。何か新しい発見はありましたか?
  • ○ 一番思ったのは、碁を打つこと、真剣勝負をすることが楽しいのはアマの方も同じなんだなということです。僕らプロはある意味「打つ碁」が楽しすぎてそれを職業にしてしまった人たち。なのにアマの方も同じように勝負に飢えていると今まで気付かなかったのは不覚でした。「観る碁」の場合は推奨するという感じでしたが、「打つ碁」に関しては、すでにアマの方たちの中にあるものなので、碁を打つのが好きな仲間として、一緒に取り組んでいきたいなという気持ちです。
  • ― 棋士の方が中心になって主催するイベントはこれまでもありましたが、棋士の方が演者ではなく、裏方に回って主催するアマ大会はとても新鮮だったと思います。つる先生は今後、どのような展望を抱いてらっしゃいますか。
  • ○ まずは「第2回つるりん杯」をしたいですね。あと、僕の地元、熊本県でもぜひやってみたい。コロナ禍以前には「宝酒造杯」という素晴らしい大会がありました。全国各地で開催されて、各地の大会を巡る方も多かったと聞きます。これは本当に究極の理想ではありますが、「宝酒造杯」のような大会を復活させられたら嬉しいですね。
  • ― 私も宝酒造杯は参加していました。本当に素敵な大会でした。つる先生の野望は大きいですね。
  • ○ 今回主催して1人の力では何もできないと痛感しました。でも、知恵を結集させれば「つるりん杯」を大成功させられる。もっと知恵を結集できれば、もっといろいろなことができるはず。「打つ碁」委員会実行委員鶴山はワクワクしていますよ(笑)。
記・品田渓