囲碁打ちたい子、全員集合!~虎丸カップ2023【コラム:品田渓】


 11月26日(日)、日本棋院で行われた「虎丸カップ」は芝野虎丸名人とその師匠、洪泉清四段がタッグを組んで開催した子ども大会だ。アマ高段者から碁を覚えたばかりの初心者まで、5歳から高校生の子どもたち約170人が集まった。

 発起人の洪四段は長年、「洪道場」を運営しており、虎丸名人をはじめ、現在トップ棋士として活躍する多くの棋士を育ててきた。これまで強い棋士を育成することで日本碁界の発展に尽力してきた洪四段。しかし、それだけでは足りないと、近年は裾野を広げる活動にも力を入れていた。
 一方の虎丸名人も自身がトップ棋士として対局する傍で、「自分たち棋士は碁を楽しむ人がいてはじめて成り立つ」という思いから常に碁界全体のことを気にかけていた。そのため、洪四段から「『虎丸カップ』という子ども大会を開きたい」と持ちかけられた時は「ためらう気持ちは全くなかった」という。
 その2人が主体となって作り上げた大会は「子どもたちを全員楽しませる」という熱意が伝わってくる工夫を凝らしたものだった。

 会場に入ってまず目を引いたのは面白そうなブースがあちらこちらに配置されていることだ。待合スペースにはロボットと対局できるコーナー。入り口付近には週刊碁で四コママンガ「ゆるみちゃん」を連載していた宇城はやひろさんが座っていて、似顔絵やイラストを描いてもらうことができる。他にも虎丸名人と写真が撮れる「フォトスポット」やオリジナルグッズが入ったガチャガチャ、「虎丸名人作の詰碁付き碁石せんべい」を販売しているおせんべ屋さんなど、まるで縁日に来たかのような賑やかさだった。
 ロボットと対局をしていた3人組の小学生に「どんなことをした?」と聞いてみると、「ガチャガチャ3回やって、おせんべ食べて、似顔絵書いてもらって、写真撮った〜」「オレもガチャガチャ3回やった。でも4回は母ちゃんがダメだって」「ボクも写真撮ってもらった。似顔絵はまだ。後で行く」など口々に答えてくれた。
 子どもたちだけでなく、引率の先生や親御さんからもこうしたコーナーは人気だった。特に宇城はやひろさんのコーナーには大人がたくさん並び、列が途切れることがなかった。また、8歳の子どもが大会に出ているという女性は「下の子と待っているところ。(下の子が)ロボットと打っていてくれるから助かる」と話した。

 一方でメインの対局は非常に本格的だった。「無差別クラス」と「有段者ハンデ戦」では手合時計を使って対局。持ち時間は5分10秒のフィッシャー方式で、これは「世界的には秒読み付きの碁が主流。子どもたちには世界基準になれて欲しい」という洪四段のこだわりだ。級位者ハンデ戦や9路盤、13路盤でも4回戦しっかりと行い優勝者を決定。子どもが級位者ハンデ戦に出ているという男性は「段級位認定大会には何度か出たが、こうやって順位を出してくれる大会は初めて。真剣勝負をしているという感じがあって、嬉しい」と話した。級位者の部も取り組みは本格的だが、集中力が続かない子が多いのも事実。そこで午前と午後の入れ替え制で、無理なく集中して対局できるように配慮した。

 大会が行われている間、虎丸名人はずっと会場にいて、記念撮影に応じたり、対局している子どもたちの間を見回ったりしていた。「座っているのは慣れているけど、立っているのは慣れていないので疲れました(笑)」と言いつつ、最初から最後まで変わらぬ爽やかさで対応している虎丸名人の姿は素敵だった。栃木県から教室の生徒5人を引率して来た男性は「大会前に生徒と名人戦をユーチューブで観戦して気分を上げてきた」という。「虎丸先生に話しかけたらすごく気さくにお話ししてくれました。子どもたちも一緒に写真を撮ってもらって喜んでいて、とても嬉しいです。(名人戦のようなプロの世界が)日常と結びついてくれれば」。オンラインで子ども教室をしているという男性は「名人がこういうことをしてくれるというのが嬉しい」という。大会を通じて「ますます名人のファンになった」と話した。
 「こんなにたくさんの方に集まっていただけるとは思わなかった。楽しんでもらえたら嬉しい」と虎丸名人。大会の締めくくりは無差別クラスの優勝者と特別賞の受賞者(特別賞は一番姿勢が良かった子に審査員から贈られる)との記念対局。名伯楽と名人が共に作り上げた大会はたくさんの子どもたちの心に残る「いい思い出」になっただろう。

記・品田渓


表彰式で入賞者にメダルをかける虎丸名人


本格的な星取表。韓国で1000人規模のアマ大会を手掛ける洪四段のお父さんがスーパーバイザーとして参戦。


子どもたちに大人気のロボットコーナー。「ロボットのブランド名は『センスロボット』ですが、愛称は募集中です」と伊藤電気株式会社の浅井さん。


大人気!宇城はやひろ先生


記念対局を打つ虎丸名人。対局は虎丸名人と芝野龍之介二段のユーチューブチャンネル「19時の龍虎TV」でライブ配信された。龍之介二段は他にも会場で希望者への指導碁を担当するなど大活躍。