韓国移籍を目前に控えた仲邑菫女流棋聖(14歳)と急成長を見せる上野梨紗二段(17歳)がぶつかる最初で最後のタイトル戦、女流棋聖戦三番勝負が、1月18日に神奈川県平塚市「ホテルサンライフガーデン」で開幕する。
若い才能が火花を散らす注目の一戦を前に、両者のデータを比較してみた。どんな展開になるのか、勝負の行方は・・・。日本棋院のデータベース(日本棋院GMS)から「年度別成績」や「手番別勝率」、「半目勝負発生率」などを調べると、意外な事実が見えてきた。
年度別成績
まずは両者の年度別成績をご覧いただこう。まずは上野二段から。これを見ると、上野二段がいかにこの数年で急激に力を付けたかが分かる。2022、23年は勝率7割以上。特に昨年は最多勝を獲得するほどの勝ちっぷりだ。
対する仲邑女流棋聖は入段してすぐに活躍し、毎年5割以上の勝率を安定して出している。好成績を収めると翌年は下位予選が免除されるなどして対局のステージが上がるため、一般的に成績が落ち込む。仲邑女流棋聖が安定して好成績であるということは、ステージが上がるのと同じスピードで実力を付けている証拠だ。
昨年の成績を見ると上野二段に勢いがあるように見えるが、仲邑女流棋聖は早くに活躍をしたため対局のステージが高く、少し停滞しているように見えているとも言える。
上野梨紗二段 年度別成績 | ||||
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年 | 対局数 | 勝数 | 負数 | 勝率 |
2019 | 16 | 5 | 11 | 0.313 |
2020 | 30 | 16 | 14 | 0.533 |
2021 | 37 | 21 | 16 | 0.568 |
2022 | 51 | 36 | 15 | 0.706 |
2023 | 68 | 49 | 19 | 0.721 |
仲邑菫三段 年度別成績 | ||||
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年 | 対局数 | 勝数 | 負数 | 勝率 |
2019 | 24 | 17 | 7 | 0.708 |
2020 | 38 | 21 | 17 | 0.553 |
2021 | 61 | 43 | 18 | 0.705 |
2022 | 70 | 48 | 22 | 0.686 |
2023 | 49 | 27 | 22 | 0.551 |
手番別勝率と半目勝負発生率・勝率/中押し発生率・勝率
仲邑女流棋聖は「手厚い攻めの碁」、上野二段は「柔軟なバランス型」という棋風分析をよく聞くが、データを見るとそう一筋縄ではいかないようだ。
まず、上野二段は黒番の勝率の方が良く、仲邑女流棋聖は白番の方が良い。そして、半目勝負発生率が圧倒的に仲邑女流棋聖の方が高く、勝率も良い。ちなみに、「半目女王」と呼ばれる藤沢里菜女流本因坊の半目勝負発生率は4.43%で半目勝負の勝率は0.613となっている(この数字は通算の勝敗から出しているので、半目連勝記録を更新していた最近に限るともっと勝率は高くなるだろう)。「手厚い攻めの碁」という評判から、黒番が得意で短期決戦志向というイメージだったが、半目勝負発生率の高さと中押し発生率の低さを合わせて考えると、実際にはじっくりと腰を落ち着けてヨセ合うのが得意で、終盤での正確さや粘り強さが最大の持ち味なのかもしれない。
対照的に上野二段の半目勝負発生率はかなり低い。あまり半目勝負のイメージのない上野愛咲美女流名人も3.89%の確率で半目勝負をしている。お姉さんに比べてヨセ勝負に持ち込むことが多いイメージの上野二段だが、実際にはお姉さん以上に短期決戦志向が強いのかもしれない。また、一般的に黒番の方が主導権を握りやすいとされる。白番より黒番の方が得意ということは、序盤で好みの展開を作るのに長けているということなのだろう。
上野梨紗二段 | 仲邑菫三段 | |
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黒番の勝率 | 0.667 | 0.593 |
白番の勝率 | 0.57 | 0.69 |
半目勝負発生率 | 2.96% | 4.12% |
半目勝負の勝率 | 0.5 | 0.8 |
中押し発生率 | 72.41% | 57.20% |
中押しの勝率 | 0.66 | 0.691 |
両者の対戦成績
両者の対戦成績は仲邑女流棋聖の6勝0敗となっている。直近では23年11月13日にテイケイ杯俊英戦予選、24年1月8日に女流名人リーグで対戦し、両局とも仲邑女流棋聖の黒番3目半勝ちだった。
特に最近は上野二段が優勢を築くも逆転を許す展開が多く、終盤の正確性は上野二段にとってはっきりとした課題になっている。これまでの対戦成績と逆転負けが多いという事実を合わせて考えると、三番勝負は仲邑女流棋聖の方に分がありそうだ。しかしながら女流棋聖戦は早碁であり、上野二段は挑戦者決定戦で、早碁で無類の強さを誇る上野女流名人を破っているという事実がある。展開次第では上野二段の勢いが仲邑女流棋聖の安定感を上回る可能性も十分にあるだろう。