秘儀「寝碁」―小県真樹九段伝説「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


秘儀「寝碁」―小県真樹九段伝説




 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。

 下島陽平八段をゲストに迎えての中部編3回目。今回は下島八段が千局以上打ってもらったという小県真樹九段が登場。碁があまりにも好き過ぎることから「橘中之楽(きっちゅうのらく、碁や将棋を行う楽しみのこと)」が選ばれました。

 小県九段はサウスポーの57歳。王冠四連覇、名人リーグに二期入ったことのある強豪です。下島八段によれば「藤沢秀行名誉棋聖からとても評価されていた」逸材で、その筋の良さは実に鮮やか。若かりし頃の下島八段を完全に魅了していたそうです。

 碁を愛してやまない小県九段は昼夜を問わず若手たちとたくさん対局してくださったそうです。下島八段もその中の一人で、「全然勝てないから、当時は小県先生が世界で一番強いと思っていた」と振り返ります。下島八段はたくさん打っていただいて本当に感謝しているそうですが、小県九段のやり方は少々(?)独特で、若干トラウマになっている部分もあるとか...。以下、下島八段の話をそのまま書きます。

 「昔、月、火と泊まりで研究会をすることがよくあったんだけど、小県先生は本当にずっと検討してるんだよね。もう全然やめてくれなくて(笑)。やっとごはん食べると先生はお酒飲んでぐでんぐでんになって、布団に入ってるの。で、布団に入ったまま碁盤を要求するのね。先生はそのまま布団の中で10秒碁打つんだけど、酔っぱらってるから10秒の間でも寝ちゃうのよ。だから、僕が代わりに時計を押してあげて、自分が打ったら『先生打ちました』って教えて、そうすると目を開けて『あ、そう』ってすぐ打って、また寝ちゃうの。そうやって打って、僕が負けるんだよね。しかもそれが永遠に続くの。本当につらかった」。



金屏風の前で満面の笑みを浮かべる酔碁(?)の使い手、小県真樹九段
【写真提供・涼暮さん】

 酔っ払った小県九段の寝ながら永遠に続く10秒碁「寝碁」は有名で、下島八段以外にも多くの棋士が餌食になったそうです。囲碁とお酒をこよなく愛する小県九段の秘儀「寝碁」。中部総本部に語り継がれる伝説の一つです。

記・編集K