ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段)
今回は碁界きっての情報通、聞き上手で話し上手な蘇耀国九段が登場しました。蘇九段の情報網は完璧で、国内の情報はもちろん、中国をはじめとする海外事情にも詳しいので、ライターでお世話になっていない人はいないと言っても過言ではありません。
人柄はお茶目で、サービス精神旺盛で、誰に対しても優しく、とにかく腰が低いので、正直なところ、知らなければ強い棋士の先生だとは思わないかもしれません。しかし実は、蘇九段はあの張栩九段をして「自分は天才でもなんでもなかった」と言わしめるほど碁の才能に溢れた鬼才なのです。
張九段は自伝的著書の中で蘇九段との出会いを「衝撃的だった」と振り返っています。以下、一部引用します。
彼は中国出身で僕と同学年なのですが、その溢れんばかりの才能の輝きに、僕は本当に驚かされたのです。
院生仲間でもずば抜けたヤンチャ坊主で、普段はイタズラとケンカばかりしている問題児なのに、いざ碁盤に向かうと、びっくりするほど才能を感じさせる碁を打ちます。「ああ、僕なんて、天才でもなんでもなかったんだな」と思い知らされました。(『勝利は10%から積み上げる』張栩著、朝日文庫、「長い序章」P32より)
張九段に蘇九段の碁について、もう少し詳しく伺ってみました。いわく「盤上の対応力が高いので変化に強い。センスもあり、大局観が素晴らしい。常識にとらわれない発想力、自分の構想を持っているので見ていて楽しい碁です」
後輩のりんは張九段が蘇九段について「あれは生まれた時から強い碁だ」と言っているのを聞いたことがあるといいます。編集Kは以前、張九段がご自身について「負けず嫌いと努力で強くなった」とおっしゃっていたのを聞きました。張九段と蘇九段は真逆のタイプだったことが分かります。
そんなお二人は自他ともに認める親友同士。違うからこそ認め合える、いい関係なのかもしれません。
修業時代を共にした友人たちと。左から小林泉美七段、林子淵八段、蘇耀国九段、張栩九段