水と油の棋風が激突~大竹優六段VS酒井佑規三段の新人王決勝三番勝負(佐田篤史七段による見どころ解説)【コラム:品田渓】


 中部の新鋭、大竹優六段と混沌流で知られる酒井佑規三段第47期新人王決勝三番勝負開幕戦が9月22日(木)、日本棋院中部総本部で行われる。トップ棋士への登竜門ともいわれる本棋戦で優勝の栄冠を勝ち取るのはどちらか。本戦開幕時にコラム「22年の昇竜は誰か~第47期新人王本戦トーナメント開幕」でベスト4予想をしてもらった前々回新人王準優勝者の佐田篤史七段に両対局者の棋風や決勝の見どころを聞いた。

(インタビュア=品田渓)


【大竹優六段写真提供:涼暮さん】

  • ―― 決勝三番勝負は大竹六段VS酒井三段となりました。
  • 佐田)ワクワクしています。二人の棋風はまさに水と油。面白い戦いになりそうです。
  • ―― たしか、大竹六段も酒井三段もベスト4予想の中に入っていましたね。
  • 佐田)そうなんです。今期ベスト4は小池芳弘七段、大竹六段、上野愛咲美立葵杯、酒井佑規三段でした。私の予想が外れたのは小池七段だけです。
  • ―― 佐田七段の予想は・・・
  • 佐田)西健伸五段です。同じ関西棋院というのもあり、応援していたので名前をあげましたが、今振り返るとこの山の本命は小池七段という感じがしますね。私情で目が曇りました(笑)。
  • ―― いよいよ決勝戦ですが、まずは両者の棋風について教えてください。
  • 佐田)先ほども少し触れましたが、水と油、まさに正反対です。大竹六段の碁は高川格二十二世本因坊に似ていると思います。高川二十二世本因坊は合理的で大局観に優れた棋風から「平明流」と呼ばれていましたが、これは大竹六段の碁の特徴と一致します。複雑な戦いを避け、明快な図を選んでいるのに遅れない。盤上コントロール力が非常に優れているんです。一方で酒井三段は「混沌流」と呼ばれる通り、積極的に未知の戦いに踏み込んでいくファイティングスピリッツが突出している棋士です。柔軟で想定外に強く、どんな局面にも適応できる、特に複雑な戦いでは無類の強さを発揮する、そんなイメージです。
  • ―― 本当に真逆ですね。そんなお二人がぶつかる決勝三番勝負。どんな戦いになるのでしょうか。
  • 佐田)想像がつかないですね。おそらく大竹六段は意識的に酒井三段が得意とする戦いには持ち込ませないような戦略を取ると思います。ただし、酒井三段は戦いが強くて好きなのは間違いないですが、淡々とした碁も苦手ではありません。柔軟で積極的な部分は仮に囲い合いになっても生かされるので、戦いにならなかったら大竹六段のペースだとも言えないでしょう。
  • ―― 囲い合いの展開になったとしても、必ずしも大竹六段のペースとも限らないとのことでしたが、戦いの展開になった場合はいかがですか。
  • 佐田)少なくとも大竹六段はそうなったら不利だと思っていそうです。ただ、本当にそうかな?と僕は思います。僕自身、数年前まで大竹六段と同じように盤上コントロールをとても重視していて、分からないことを極力排除した上で勝つことを目指していました。けれど、ある時に少し自分のリミットを外して、分からないけど踏み込むということをしてみたら、むしろ成績が良くなったんです。大竹六段は絶対によく手が見えているし、読めているので、本人の言う「戦いが苦手」はきっかけがあれば変わるんじゃないかという気もします。
  • ―― ひょっとしたら、酒井三段との三番勝負が新しい大竹六段誕生のきっかけになるかもしれないということですね!
  • 佐田)あり得ますね。現状ではめったにないくらいに真逆の二人ですが、だからこそぶつかり合ったらすごい化学反応が起こるかもしれません。
  • ―― お話を聞いてますます決勝三番勝負が楽しみになりました!両者とも棋戦初優勝がかかっています。気合が入っているでしょうね。
  • 佐田)僕は大竹六段とプライベートで仲が良く、よく話すのですが、彼はものすごい気合ですよ。「平明流」ではありますが、ハートはめちゃくちゃ熱くて闘志は十分です。中部総本部所属棋士初の優勝もかかっていますし、同い年の「花の01年組(2001年生まれ棋士)」には関航太郎天元広瀬優一六段がいて二人とも新人王をすでに取っているので、自分も負けていられないという気持ちが強いと思います。酒井三段とは個人的な接点があまりないですが、対局時に滲み出る迫力、鋭さは本当にかっこいいといいますか、すごくオーラを感じます。面白い勝負にならないはずがありません。
  • ―― 開幕局は9月22日(木)。日本棋院ユーチューブチャンネルにて生中継が行われる予定です。佐田七段、ありがとうございました。
記・品田渓