昨年9月、第19回アジア競技大会での一力遼棋聖の涙は胸に迫るものがあった。準決勝で中国の柯潔九段に敗れ3位決定戦に臨んだが申眞諝九段に敵わず、人目をはばからず泣いたのだ。
そして今年7月、一力は第10回応氏杯でまたしても柯と準決勝で当たった。応氏杯の準決勝は3番勝負。初戦を落とすも、第2局、第3局と連勝し、決勝に進出した。世界戦決勝進出は実に7年ぶりの快挙だ。
大きな壁を越え、新たなステージに立つ一力棋聖に話を聞いた。
(インタビュア=品田渓)
- ― 決勝進出、おめでとうございます。まずは準決勝3番勝負を振り返った感想をお願いします。
- ◯ どの碁も自分らしく戦えましたし、勝てたことは自信になりました。柯潔さんには大きいところでやられていたので、その意味でも良かったです。
- ― 今回勝つことができた要因はどこにあると思われますか。
- ◯ これまでと今回とを比較した時に、最も力になったのは許家元(九段)さんの存在です。実は私から国際戦で最後の1人になった時は団長の他にもう1人、通訳兼研究パートナーを付けてもらえるようにお願いしていて、それが可能になりました。そして、今回は許さんに私がお願いして同行していただきました。通訳はもちろん、研究でも精神的な面でもとても助けられました。
- ― パートナーの存在が大きかったのですね。
- ◯ 国際戦に出場する中で、例え対局するのが1人だったとしても、中韓がチームで現地にいるところを見てきました。例えば農心杯の第3ラウンドでは韓国は第1ラウンドで敗退した選手も含め全員が現地入りをしていました。日本もできるところから少しずつ取り入れていきたいと提案し、実際にとても力になったので本当に良かったと思いますし、許さんにはとても感謝しています。
- ― 棋譜集(『遼遠に翔ぶ 一力遼打ち碁集』マイナビ出版)の取材時に「国際戦で結果を残すためにできることからやっていきたい」とおっしゃっていたのは、こういうことだったのですね。
- ◯ そうですね。その1つです。
- ― 他にも一力さんの提案で変わったことがあるのでしょうか。
- ◯ ナショナルチームでリーグ戦を行うようにしてもらいました。農心杯と同じ、持ち時間1時間1分の秒読みです。成績が悪いと下位グループに落ちますし、リーグ内の成績が国際戦出場の参考の1つになっているので、以前よりも目的意識が明確になったと思います。
- ― ご自身の研究だけでなく、国際戦に向けた体制作りも含めて、できることから少しずつということなのですね。
国際戦の決勝進出は2017年のLG杯に井山裕太王座が進出して以来7年ぶりです。日本勢の不振が続いていただけに、一力さんの決勝進出には大いに勇気づけられました。 - ◯ 今までも「本来の力を出せればそれほど劣っているとは思えない」と思っていました。勝てない状態が続いたことで、必要以上に勝てなくなっていたように思います。今回、最も大きな収穫は第2局、第3局で「力を出し切ることができれば十分に戦える」と証明できたことだったと思います。
- ― 決勝の相手は前回大会の準決勝で敗れた謝科九段です。
- ◯ そうですね。リベンジできるように頑張ります。