日本女子囲碁リーグは推し活である!名古屋会場のイベントをレポートします!(柳澤理志)


 令和6年11月9日に行われた第1回日本女子囲碁リーグ第4ラウンド。午前10時からは、東京会場にてチームセンコーグループVSチーム福岡の戦いが繰り広げられた。
 14時からはチーム名古屋とチーム若鯉の対局が愛知県名古屋市の日本棋院中部総本部で行われた。
 名古屋開催の際は、いつもファンのためのイベントが行われている。指導碁や大盤解説会、終局後の選手と触れ合える時間など、盛りだくさんの内容をお届けします。

(記・棋士六段 柳澤理志

 応援する楽しさがここにはある。日本女子囲碁リーグは、推し棋士を全力で応援できる"推し活"の新しい舞台だ。



 今回の手空きの羽根彩夏二段(左)と大森らん二段(右)は会場に訪れて、ファンと触れ合った。


 この女子リーグはそれぞれチームカラーがある。例えば、チーム名古屋は青、チーム若鯉は赤である。
 この日、会場には、応援ユニフォームを自作した、熱心なファンの姿があった。




 胸元に燦然と輝く「チーム若鯉 親衛隊」の文字。ものすごいクオリティである。

「大好きな先生ばかりいる、チーム若鯉が推しです!でも、今日のイベントは名古屋のホームだけに、地元の棋士やファンが一丸となってチームを応援する気持ちが伝わって、そこもすごくいなと思います。むしろもっと青(チーム名古屋のカラー)で染めてほしいですね(笑)」




 これはまさに野球やサッカーの「サポーター」的な楽しみ方である。
 囲碁界の新しい文化は、ここから始まるのかもしれない。

 もちろん、名古屋チームの応援団も負けてはいない。



 会場には、地元ファンからたくさんのメッセージカードが飾られていた。

 囲碁の対局は、始まってしまえば、孤独なものだ。
 しかし、ここにはチームメイトがいる。応援団がいる。
 選手たちにとって、大いに励みとなったことだろう。

 このように、一昔前にはなかった、「推す」文化が囲碁界にも根付いてきている。
 本記は、まだまだ存在する推せるポイントをひたすら紹介する視点から、この日のイベントを振り返っていこうと試みるものである。


推しポイント 「監督」

 さて、今回のリーグはまだ前半ながら、全勝チームがおらず大混戦。このラウンドで勝利したほうが、優勝争いに大きく前進する事となる。

 対局前、両監督に、それぞれ相手チームの印象を伺った。
 主将、副将、三将と、誰をどこに持ってくるかは、ラウンドごとに監督の采配によって決まる。
 勝負は、対局の前からすでに始まっているのである。

チーム名古屋・下島陽平監督
「チーム若鯉は、実力はもちろんだけど、特に精神的に強いメンバーが揃っている。プレッシャーへの強さは、全チームの中でもズバ抜けているように思います。あと監督がウザい!」

チーム若鯉・山本賢太郎監督
「名古屋は、負かすまでが大変なチームという印象。前回のラウンドを見ていても、粘り強くて、なかなか土俵を割らない。今回も大変な戦いを覚悟しています。あと監督がウザい!」



早くも火花を散らす山本監督(左)と下島監督(右)
親友同士ならではのやりとりで、戦いを盛り上げる両雄である。

 そう、お気づきの通り、この女子リーグ、推すべきポイントは選手だけではない。
 このように監督たちも、大いに推せる存在なのである。


推しが多すぎる 「選手」




 こうして、戦いの火ぶたは切って落とされた。
 みなさんは、どの選手を推していますか?
 推しが多すぎて困っている、という方も少なくないかもしれませんね!

 (本記はイベントについての様子がメインのため、内容は割愛します。
 棋譜の詳しい解説は、別に記事が上がりますので、そちらをご覧ください!)


推しが見つかる 「解説会」

 推すポイントは、選手や監督だけにとどまらない。

 この日のイベントの様子に、改めて目を向けよう。
 中部総本部所属の棋士が、総出で盛り上げた。




 現地の解説会場では、大竹優七段が解説者を務めた。
 チーム名古屋の加藤千笑三段高雄茉莉二段とは同い年のため、日頃の選手のエピソードも交えた名解説を披露した。まだ21歳の若さだが、しゃべりもずいぶん達者になったものである。
(記者・柳澤としては小さい頃から知っているため、どうしても「大きくなって...」という目線が文章ににじみ出てしまう)

 各棋戦で大活躍中、NHK杯も常連で、すでに全国区だが、こういう姿を見てよりファンになる方も多いことだろう。




 そんな大竹七段とフレッシュなコンビを組むのは、聞き手、櫻本絢子初段
 故・小川誠子七段の唯一の弟子。師匠との感動的エピソードの数々は、囲碁フォーカスや新聞等の媒体でも紹介された。よく通る声で、素朴な疑問をぶつけていく。会全体の進行にも気を配りながら、解説をサポートした。普段から明るく快活な性格で、小さい子供への接し方が上手である。これからも、彼女を様々な場所で見る事になるだろう。

 ぜひ、見かけたら声をかけてあげてください。




 この写真に、隠れ推しポイントがある。

 大竹七段の右にいるのは、寺田柊汰三段。彼が、解説用のスクリーンの碁盤を操作している。

 この写真を見て凄さを瞬時に理解された方は、「オレでなきゃ見逃しちゃうね」とドヤ顔をする権利がある(?)。

 寺田三段は、解説者が差し棒で示した場所を見ていない。
 すなわち、声だけを聴いて、瞬時に意図を読み取り、それに対応する手順を打ち込んでいるのだ。

 なんなら、シチョウを最後まで追いかけたり、攻め合いならちゃんと最後に石を打ち上げるところまで示したり、自主的に補足まで入れている。

 実はとんでもない技術なので、今度彼を見たら、褒め称えてあげてください。


推してほしい 「YouTube配信」




 女子リーグでは毎回、Youtube配信に女性のゲストが聞き手役で登場するのが、恒例となっている。
 今回は、アナウンサーの今村有希さん。NHK「ウィークエンド中部」のキャスターなので、東海北陸地方の方は、毎週土曜日の朝に会える。子供の頃に中部総本部の教室に通っており、アマ4段の腕前。現在、絶賛5段を目指して特訓中なので、ぜひ応援してください。

 青のチームと赤のチームの間をとって、紫の服を着てきたそうである。




 配信は、実はかなり物々しい機材の中で行われている。
(日本棋院コンテンツ事業部にもエールを!)

 監督を中心に、解説もバッチリ。対局が終わった選手の、ナマの感想がすぐに聞けるのも配信の魅力である。
 アーカイブも残っているので、見ていない方は、ぜひそちらも併せてお楽しみください。


これぞ箱推し(?) 「中部総本部」

 一般に、アイドル個人ではなく、そのグループ全員を推すことを「箱推し」というらしい。
 この女子リーグにおいては、チーム全体、ということになるだろうか。

 しかし、ここではあえて、その概念を「日本棋院中部総本部」という文字通りの箱ごと紹介してみよう。




 会場には、中部総本部事務局のアイデアで、「女子リーグ限定ガチャ」も設置された。
 実は、先に紹介した応援メッセージボードも、事務局の発案。
 そこかしこに、来る人を楽しませる工夫を見ることができる。

 冒頭ご紹介したチーム若鯉推しの女性も、この中部の手作り感、アットホーム感、そして、みんなで選手たちを応援しようという姿勢が、相手チームでありながら、大いに気に入ったそうである。

 会場全体が、その雰囲気で包み込まれている。




 紹介する時系列は前後したが、午前中には中部の棋士多数出演の、指導碁会が行われた。
 まだまだ本記では紹介しきれなかった、魅力的な棋士がたくさんいる。

 ぜひ、機会を見つけて直接会いにきてください。


推しと触れ合える「イベントの最後」

 局後は、選手が解説会場に姿を見せてくれるのも、このイベントの魅力。




 今打ったばかりの対局の感想を、目の前で聞くことができる。
 そして、目玉はこれだけではない。




 上野梨沙女流棋聖が持っているのは参加者プレゼント用の直筆色紙。
 このイベントにはこんな特典まであるのだ。




 今日の出場チームの選手と監督の色紙。すべて一点もの。
 ちなみに乗っているトランプは、抽選に使ったものである。




 事前に行われた抽選で当たった方に、選手が直接贈呈!
 これは記念となることでしょう!


終幕・祭りの後

 どちらかが勝ち、どちらかが負ける。
 当たり前だが、勝負師の宿命である。

 負けても仲間や応援団がいる。
 勝てば喜びは何倍にも増える。

 団体戦のステキな一面を、対局後の選手たちの姿から見ることができる。




 残念ながらホームゲームで敗れてしまったチーム名古屋。
 応援メッセージを見て、癒されているひと時である。




 さすがに表情に悔しさが滲んでいる。
 しかし戦いはまだまだこれから!
 多くの声援が彼女たちの力となることでしょう!
 がんばれチーム名古屋!




 そして、見事勝利したチーム若鯉。
 まだ先は長いので、控えめなガッツポーズ...ではなく、これが「若鯉ポーズ」なのだ!

 最後に山本監督から勝利コメントを。

「選手たちが本当に頼もしい。まだ言えませんが、この先の戦略もすでに考えてあります。引き続き『家族』一丸となって頑張ります!」

 次回のイベント同時開催、名古屋ラウンドは来年の1月25日です。

 要チェック、お願いします!

 いかがだったでしょうか?
 推しを見つけ、そして推しと触れ合える素晴らしいイベントです。

 次にこの楽しさを味わい、新たな囲碁文化を創るのは、あなたです!!