謹賀新年「チームつるりん」座談会(後編)―つるりん「壁」としての矜持
週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話、謹賀新年「チームつるりん」座談会(後編)です。
(前編)では棋道山の頂上にそびえる「タイトル城」の手前には「つるりんの壁」がある、ということが明らかになりました。後編では「つるりんの壁」の内部で起こるあれこれについて語ります。
【座談会メンバー】
- つる = 鶴山淳志八段 熊本県出身。サイクリングとキャンプが大好きな3児の父。超攻撃的な棋風から「肥後の暴れ馬」の異名あり。
- りん = 林漢傑八段 鈴木歩七段の頼れる夫で2児の父。アクション芸と顔芸とボルダリングが得意。棋風はクール。
- P = 編集P ユーチューブ「つるりんチャンネル」の編集担当。棋力はたぶん初段くらい。自然豊かな埼玉の奥地に住んでいる。ほんの少しトトロ感が漂うアラサー男性。
- K = 編集K 週刊碁「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」の編集担当。棋力は六段。中学生の頃、地元の公民館にテスト勉強をしに行ったら、子ども体験教室のお迎えに来たお母さんと間違われた経験あり。今やっと見た目に年齢が追い付いてきたアラサー女性。
- ( P ) 素朴な疑問なんすけど、その「つるりんの壁」の中ってどんな感じなんすか?
- (りん) なにせ人が多過ぎて壁に見えるくらいだから、ものすごく混み合ってる。あと、空気が薄いから本当に一歩が重い。たまに吹雪いて迷子になったりもするし、足場が崩れて滑落したりもする。
- (つる) わかるー。我々くらいの実力っていっぱいいるんだよね。一緒に歩く仲間が多い心強さもあるけど、ライバルだらけで競争が激しい大変さもある。
- (りん) そうそう。同じくらいの実力同士だと、ほんの少しの差が勝敗を分けるからね。本当に負けるのは簡単で勝つのは大変...。
- (つる) 勉強してるうちに迷宮入りして、7合目まで来てたはずなのに6合目に戻ってる!とか、同じところで足踏みしてるうちに押し出されてる!とか、前に進むって単純なようでなかなか難しいんだよね。
- ( K ) AIがコンパスとかナビとかにはならないんですか?
- (りん) なった部分もあると思う。実際にAIが出てから全体的な碁のレベルがすごく上がったし。
- (つる) ただ、全員同じ条件だからね。AIで評価値や推奨手が分かっても、結局は自分が使いこなせないと意味ないし、AIの言う通りをすればいいというものでもない。
- ( P ) ...厳しい世界っすね。
- ( K ) 壁の中にいるのはどんな人たちなんですか?
- (つる) 壁の中はすごくいろんな人がいる。我々みたいな中堅もいれば、下から登ってくる若手もいるし、「タイトル城」の中で負傷して一時撤退を余儀なくされた手負いの戦士もいる。
- (P) そっか、登山要素だけじゃなくて、バトル要素もあるのか!
- (りん) 設定適当だから、あんまりツッコミ入れないで~(笑)。その辺はフワッとしておいて、お願い(笑)。
- (つる) あはは。まあ、難しいよね。バトルなんだけど、実際に自分にできることは勉強して強くなることだけだから。
- ( P ) おおー! かっこいいっすね!
- ( K ) 壁の中から見ていて、この人すごい、今後タイトル城に入りそう、って思うことはありますか?
- (りん) あるある。ほとんどの人は少しずつレベル上げて、ゆっくり登っていくんだけど、たまに無敵モード?って勢いで横をブオーって通り抜けてったり、筋斗雲みたいなのに乗って一気に入城したりするのがいるよね。
- (つる) いるいる(笑)。無敵モードが令和三羽烏(許家元十段、芝野虎丸九段、一力遼九段)で、筋斗雲がせきこう(関航太郎天元)ね!せきこうは壁手前にいると思ってたのに、気付いたら入城してたもんなぁ。
- ( K ) これから無敵モードとか、筋斗雲とかで一気に入城しそうな若手っていますか?
- (りん) 筋斗雲は予測ができないけど(笑)。福岡航太朗(三段)くんは無敵モード入った可能性はあるよね。
- (つる) 碁聖戦本戦で張栩(九段)先生に勝ってたし、国際戦(2021中日韓聶衛平杯囲碁マスターズ)で中韓の若手トップに連勝してたし、あるかもしれないよね。
- ( K ) 最近、女性の活躍が著しいですよね。藤沢里菜女流本因坊や上野愛咲美女流棋聖はどうですか?
- (りん) 2人とも今まさに壁を通り抜けようとしているところって感じがする。本当にあと一息でタイトル城の姿をとらえるんじゃないかな。
- ( P ) 仲邑菫二段はどうですか?
- (つる) 菫ちゃんもすごい。猛スピードで駆け上がってるから、正直今どこにいるのか分からない(笑)。
- ( K ) 仲邑二段ってまだ12歳ですよね。すごいな~。これからがすごく楽しみ!!ところで、お二人はどうですか?
- (りん) ん?
- ( K ) これから壁外に抜け出してタイトル城へ入れそうですか?
- (つるりん)......。
- (つる) えっっと、少しでも成長できるように頑張ります。
- (りん) 同じく。
- ( P ) 急に局後の真面目なインタビューみたいっすね(笑)。
- (つる) まあ、だからアレだよね。頂上を見てしまうとあまりにも遠くて失神してしまうから、次の一歩のことだけを考えようってことだよね。
- (りん) 失神したら滑落して壁前まで戻っちゃうからね。だいたい、標高5、6000メートル地点では次の一歩のこと以外考える余裕なんてない!
- ( K ) それはそうかも...。
- (つる) でも、1つこれだけはと思ってることはあるよ。
- ( P ) 何ですか?
- (つる) 登ってくる若者の前に倒しがいのある壁として立ちはだかること!
- (りん) つるさん、さすがいいこと言う!我々中堅が簡単に負けたらダメなんだよ。どんなゲームでも世界を背負って立つ勇者は道中で強いモンスターをたくさん倒してより強くなっていくんだから。我々は井山(裕太棋聖)さんのようにはなれないけど、優秀な壁にはなれる!主人公の経験値に貢献するためにも、頑張っていこうよ!
(思いを一つにするつるりん)
(P&Kの心の声・頑張れ!!つるりん!!!)
中年の星、つるりんの2人。22年も頑張ります!
記・編集K